この記事で解決できる悩み
- シナリオとは何かわからない
- どうやってシナリオを作ったらいいかわからない
- いいシナリオを作れなくて悩んでいる
『適切なシナリオ作れてますか?』
本日の目次(タップすると飛ぶよ)
シナリオってなんだ?
あなたが思い浮かべるシナリオとは何ですか?
シミュレーション教育でいうシナリオとは次のようなものと考えます。
シナリオとは
- 学習者が学ぶために必要なもの
- より現実的な場面を思い浮かべさせるもの
- いくつかの段階を踏むためにつくられるもの
- 個々の学習の要素を盛り込むもの
- 学習者自身の行動によって学びをうながすもの
つまり、学習者がすべてのシナリオを終えたとき、指導者が伝えたいこと(学習者が学びたいこと)を学習者に習得させるための状況設定がシナリオです。
シナリオ作成に必要な要素
シナリオがどんなものかわかったところで、シナリオに盛り込むべきポイントを見てみましょう。
シナリオ作成に必要な要素
- 各シナリオで学習者に習得してほしい目標
- 積み上げ式
- シンプル
- 現実的
各シナリオで学習者に習得してほしい目標
それぞれのシナリオに目標を設定するのは、第1回「目標を提示する」でお話したように、必ずしてください。
即座に考える場合も、事前に準備していく場合でも「そのシナリオ(症例)で学習者に何を習得させたいのか?」を考えてください。
習得させたいものは、その日の学習すべき全体の中のどの部分なのかを考えると、設定しやすいでしょう。
そして、目標設定でもう1つ意識してほしいことがあります。
それは、「そのタイミングでやるのが妥当な目標か?」です。
VF/pulseless VTの1シナリオ目と5シナリオ目では、学習者のこなしてきた数も違うので、同じ目標になることはほぼありません。
1シナリオ目であれば、短めでまずはシナリオを実技することに慣れてもらいつつ、前のセクションの復習を兼ねるのもいいでしょう。
でも5シナリオ目も復習ばかりしていては前に進めません。
5シナリオ目ともなれば、学習者もシナリオの実技に慣れきていますし、ステーションの終盤戦でもあるので、シナリオも長め、今までの目標はこなしつつ新たな課題を目標にしてあげるのがいいでしょう。
積み上げ式
徐々に難易度を上げていき、段階を踏んだ方が学習者の理解が進むのはわかりますよね。
すべてのシナリオ終了時に全体の目標が達成できるのが理想形です。
というより、全体の目標が達成できていなければいけません!
ICLSですと、VF/PulselessVTセクションで5ないし6シナリオやると思います。
「1シナリオを1段にたとえて、6段の階段を上らせましょう。6段上ったら到達目標に届いている。」ということです。
シンプルである
”Simple is Best!”あれもこれもと詰め込まないほうがいいでしょう。
時々、あれもこれも詰め込もうとしてシナリオが複雑で、学習者が戸惑ってしまうことがあります。
自分が学習者だった時に、そんな複雑なシナリオ対応できたか思い出してみてください。
もし「できない」と答えるなら、そのシナリオは不適なのです。
現実的である
実際の臨床現場に即した状況や想定内の症例にしましょう。
私は、昔こんな症例を出して失敗したことがあります。
医学生時代の学生ACLSでは面白く学ぶために非現実的な症例をやっていたので、そのノリで出した症例です。
「大人になったのび太くんがタケコプターで空高く飛び上がったところ、急に落下してきて倒れました。始めてください。」
空気が薄くなって低酸素血症で心肺停止になった症例を想定していたんですが、現実的にはありえませんよね。
こういう妄想の症例はやってはいけませんよ。

ICLSのVF/Pulseless VTのセクションを例に
字面だけ読んでいてもわかりにくいと思いますので、ICLSのVF/Pulseless VTセクションを例に考えてみましょう。
実際に、私がICLSコースで使用したものを例に挙げています。
VF/Pulseless VTステーションの目標は「目撃のあるVF/Pulseless VTに対し、最初の10分間を管理できる」です。
ステーションの目標を細かく分割して、6シナリオに散りばめます。
シナリオの長さも徐々に長くなるように設定します。
VF/p-VTシナリオの目標
- BLSの復習
- アルゴリズムの習得
- エピネフリン投与を考える
- 換気不良の場合の対処(チーム医療)
- 抗不整脈薬投与を考える
- 気管挿管が必要な場合
段階的に目標を上げていくことで、6シナリオ終了時にステーション全体の目標を達成できるようにします。
シナリオの長さもだんだん長くなります。
①VF → shock → CPR → 心拍再開
②VF → shock → CPR → RC・VF → shock → CPR(・Epi) → 心拍再開
③Pulseless VT → shock → CPR → RC・Pulseless VT → shock → CPR・Epi → 心拍再開
④VF → shock → CPR(左右気道閉塞とする) → RC・VF → shock → CPR・Epi →心拍再開(Airwayを挿入した時点で気道閉塞を解除する)
⑤VF → shock → CPR → RC・VF → shock → CPR・Epi → RC・VF → shock → CPR・アミオダロン → 心拍再開
⑥VF → shock → CPR(左右気道閉塞とする) → RC・VF → shock → CPR・Epi →心拍再開 (呼吸再開なし、Airwayを挿入しても気道閉塞のままで,気管挿管後に気道開通させる)
2症例目でアルゴリズム習得が不十分と判断したら、次のシナリオでもアルゴリズム習得を課題として残しつつ、エピネフリンの投与量やタイミングも目標にするなど、臨機応変な対応もありです。
もし、出来が悪くてアルゴリズム習得に時間がかかるようなら、4シナリオ目も目標をアルゴリズム習得とし、アルゴリズム習得を徹底することもあります。
やりがちな失敗
シナリオと作るときにやりがちな失敗を挙げておきます。
やりがちな失敗
- 掲げる目標のタイミングが間違っている
- 目標が多い(3個以上)
- 状況設定が複雑
- 現実にあり得ない
掲げる目標のタイミングが間違っている
例えば、VFのシナリオ目標で「安全と迅速な除細動を目標にやりましょう」と掲げる指導者がいますが、適切なタイミングでしょうか?
ICLSならば、「安全かつ迅速な除細動」は、シナリオに入る前のスキルの段階で習得しておくべき目標です。
シナリオであえてやる必要があるとすれば、スキルステーションの段階で習得させるべきことを習得させれていないと宣言するようなものです。
このように目標提示には適切なタイミングもあるので意識してください。
目標が多い
目標が多いと、シナリオに入るときには学習者の頭からさっき言われた目標がすっぽり消えていきます。
指導者も、自分で言っておきながら見る点が多くなりすぎるし、フィードバックも長くなってしまいます。
結果、学習者はただこなしただけでシナリオを終えてから得るものが少ない(もしくはない)という矛盾が起こります。
あれもできていない、これもできていないと思っても、優先順位をつけて2つまでに絞りましょう。
特に、最初の方のシナリオでは無理をせず1つの目標に集中させてあげましょう。
「アルゴリズム習得にチーム医療を意識して、換気不良も対処しましょう」っていきなりシナリオの目標にされたらキツイでしょ?
状況設定が複雑
実臨床に近い設定にしようとして、やたら併存疾患が多かったり、患者の背景がもりだくさんだったりとして失敗するケースです。
実際の臨床に近づけることも大事ですが、Off-the-jobトレーニングでは、目標を達成させることが大事です。
なので、シンプルなシナリオにして、学習者に習得してほしい内容が指導者も観察しやすい状況を設定しましょう。
最後のメガコードで波形が2回変わって、気管挿管させて、原因検索もすぐにわからないような盛り盛りのシナリオを見かけますが、「そのシナリオをさせて、何を習得させたいか?」させている指導者ははっきり答えられますか?
現実にありえない
上述した私ののび太くん症例は論外です。
そこまでの症例ではなくても、その数値は実際にはありえないと思われる検査値を言ったり、経過にしたりするシナリオも散見されます。
見栄を張って無理に難しそうなシナリオにしたり、自分が調べてないのに想像したシナリオはやめましょう。
即興の場合は自分の精通したシナリオにしたり、準備の段階で現実的にありえるシナリオか調べたり聞いたりしましょう。
まとめ
本日はシナリオの作り方のコツについてお話しました。
シナリオを1つこなすごとに、その日のゴールに1段ずつ近づいていく。
そして全シナリオをこなしたときにはその日の階段を上り終えるようにシナリオを作ってください。
シナリオに盛り込みすぎたり、設定を複雑にしすぎると、実践する学習者も困惑しますし、指導する指導者も混乱します。
Simple is Best!
では。
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